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“マインドフルネス瞑想によるリラクゼーションが社会を変える”ティク・ナット・ハンへの独占インタビュー

筆者/インタビュア マリアンヌ・シュナル

ティク・ナット・ハンはベトナムの僧侶であり、執筆者、指導者、平和運動家でもある。その平和活動や和平提案の功績は、マーチン・ルーサー・キング牧師が1967年にノーベル平和賞候補に推薦し、平和と非暴力の伝道者と呼ぶほどのものである。

現在は、南フランスに創設したプラム・ヴィレッジ僧院・瞑想センターを拠点に北米やヨーロッパ全域で講演、「マインドフルな生き方の実践」のリトリートを開催している。著書は100冊を超え、ベストセラーに『マインドフルの奇跡―今ここにほほえむ (からだの冒険こころの冒険)』、『生けるブッダ、生けるキリスト』、『仏の教え ビーイング・ピース―ほほえみが人を生かす』がある。現在も、来年出版予定の『安らぎは呼吸の中に―呼吸の実践(仮訳)』(※)の執筆に取り組んでいる。(※注:Peace Is Every Breath 本書は2011年に HarperCollins より出版された:未邦訳)

ティク・ナット・ハンの著書『微笑みを生きる―“気づき”の瞑想と実践』の序文で、ダライラマがティク・ナット・ハンについてこう記している。「彼は、厳しい精神状態に変容と癒しをもたらすためにどのようにマインドフルネスや集中力を用いれば良いかを示しています。人との関わり、内なる平和との関わり、そして地球の平和との関わりを示しているのです。」

以下のインタビューでティク・ナット・ハンは、自己を養う手段として休憩時間をどのように使うことができるのか(彼によると「我々人間は真に休息しリラックスする智慧を失っている」そうです)、また多忙な連邦議会議員であっても、歩く瞑想をすることで、ストレスの解消や議場での投票へ向かいながらの気分転換をしたり、技術が社会に与える影響に対しての懸念を明らかにしたり、瞑想やマインドフルネスの力に対する信念を明確にし、いかに世界や自己の平和をもたらしているのかを、師の貴重な洞察、提案、見識を交えて伝えています。

マリアンヌ・シュナル(以下、マリアンヌ): くつろぎと瞑想の実践がご自身の生活にどのような効果をもたらしていると思われますか?

ティク・ナット・ハン(以下愛称、タイ): 現在の科学研究でも示されているように瞑想の治療効果はとても高いと思います。マインドフルな呼吸や座る瞑想、歩く瞑想は身体の緊張だけでなく心の緊張もほぐします。すべての緊張を解放すると、身体の自然治癒力が働き始めます。野生の動物はそのことを知っています。ケガや病気、そして疲れ果てた時は何をすればよいか知っているのです。静かな場所を探し横になり、食を断ち、狩りもせずひたすら休みます。そして幾日かたつと立ち上がれるほどに回復しているのです。

我々人間は真に休息しリラックスするという智慧を失っています。混乱して、身体や心が自然に治っていく働きにまかせようとはしません。瞑想は不安や恐れ、怒りを包み込む大きな癒しとなります。私たちに内在する自然治癒力を活かしましょう。

座る瞑想の秘訣は完全にくつろぐことです。上半身を立てて座りますが、力は入れません。そして全身の筋肉を弛めます。息を吸いながら、身体のある部分に気づきを向けます。息を吐きながら、感謝と愛をこめてその身体の部分に微笑みます。例えば、息を吸いながら顔に気づきを向けるとします。顔面には300近くの筋肉があります。不安、怒り、悲しみの感情がある時、この300の筋肉がこわばるので、顔を見ればその緊張が読み取れます。息を吸いながら顔に気づきを向け、息を吐きながらほほえむ。そうすると、顔の筋肉がゆるんできます。まるで奇跡のようです。少しの呼吸で、私たちの顔に平和や幸せ、そして癒しがもたらされるのです。私たちの顔は花が生き返ったかのように明るく生き生きとします。誰の顔も花と同じなのです。

「息を吸いながら、顔に気づきを向ける。息を吐きながらほほえむ。」この呼吸を3~4回行ったら、息を吸いながらこわばることの多い肩の筋肉に気づきを向けます。息を吐きながら、リラックスをして肩にほほえみます。少しずつ身体全体に気づきを向けていきます。このようにすると、数分後には身体が整いとても軽くリラックスした状態になるのです。

これは瞑想をする部屋でなくても、今いる場所で座ればすぐにできることです。私たちはどこであっても座る瞑想の時のように姿勢よく座ることができ、安定や自由を感じることができます。食事や事務作業のときには上半身を立ててリラックスして座ります。ブッダのように座るのです。

連邦議会の議員で歩く瞑想を実践している人たちがいます。そのうちの一人は投票に行くときにいつも歩く瞑想をし、思考を完全に止めるそうです。オフィスでは、質問や多岐にわたる業務への対応に追われ多忙な日々を送っています。その中で思考を止めて休息できる唯一の時間が、投票へと向かう時なのです。意識を完全に自分の呼吸や歩みに向け、何も考えません。議員という慌ただしい日々を乗り切る上で、その時間は彼にとっての支えになっているそうです。

休息やリラックスをするコツを改めて習得することは我々にとってとても重要なことです。それにより慢性的な緊張や、心配がもたらす病気の発症を防ぐだけでなく、気分転換ができ、集中力が高まり、問題に対し建設的な対応ができます。走りつづける習慣を手放して、リラックスし、自分の中心に戻るために少しの時間を設けることですべての物事がより良い結果へと繋がるのです。そして生きることにもっと喜びを感じるようになります。

マリアンヌ: パソコンやテレビ、ツイッターへの投稿がリラックスの時間であると考える人に対し、その効果をどうお考えですか?

タイ: これについては、休暇中に旅行へ行く人と同じ印象を受けます。ゆったりと過ごそうと旅行に行くのに、我々の多くはどのようにゆっくりしたら良いのか分かりません。旅行へ行く前よりもずっと疲れて帰ってくることもあります。これはどういうことなのでしょう?

リラックスをすることは身体、心、感情、人間関係をより良い状態にするために欠かせないものです。これはとても大切なことなので、私は指導者に、楽しくリラックスをするために行う活動の前と後に自己チェックをし、実際に活動をする前より気分が良く、リラックスしているかどうかを確認するよう勧めています。その後で、座る瞑想、歩く瞑想、トータル・リラクゼーション(深いくつろぎの瞑想)を実践してもらい、その後の感覚を確認してもらいます。

マリアンヌ: リラックスしていると感じる時も思考が休まらないことがよくありますが、この傾向に気づき思考が支配されるのを防ぐにはどうすれば良いのでしょう?

タイ: 思考の動きに気づきを向けることが重要です。すべては私たちの思考によるものなのです。プライムヴィレッジ僧院では、思考が分散している時に寺院の鐘が鳴ると、話すこと、考えること、そして散漫している思考を止めます。自分の呼吸、そして今ここに意識を戻し、自分の身体や心に起こっていることを感じます。そして命に立ち返り実体を取り戻します。私たちはただ動き回るロボットではないのです。そうすると、その瞬間にすべきこととすべきでないことが分かるのです。例えば、健康的ではないものを食べているとします。そのような時、鐘の音は私たちにいったん立ち止まり、考え直す機会をもたらします。私たちが誰かに対する苛立ちで頭をいっぱいにしている時は、いったん止まり、感情に気づき、その状況をもっと深く見つめ、より生産的に対処できる方法を見つけることができるのです。

マリアンヌ: 忙しくてリラックスする時間をとることができないという声をよく聞きますが、そのような人たちにもできる簡単な方法はありますか?

タイ: 私たちはマインドフルな鐘の恩恵を受けるために僧院へ赴く必要はありません。日常生活の中にも自分に立ち返り、いまここに立ち返ることができることがたくさんあります。例えば電話の音です。私の生徒の多くは、呼吸を3回してから電話に出ます。そうすることで自分自身と電話の相手にしっかりと意識を向けるのです。運転をしている時には、赤信号が気づきを与えてくれる素晴らしい友となります。赤信号は、私たちに止まること、リラックスすること、悲観的な思考パターンを手放すこと、そして自分自身の内にゆとりを感じることを気付かせてくれるのです。子供や動物と遊ぶ時間や散歩をして雲や花を見る時間を5分とり、呼吸を楽しむだけで緊張は随分とほぐれ、リラックスしリフレッシュすることができます。自分のお気に入りのマインドフルネスの鐘をみつけ、生きている喜びに気づかせてもらいましょう!

私がちょうど書き終え、現在編集中の短編の本で、この主題を扱っています。英語版のタイトルは『安らぎは呼吸の中に―呼吸の実践(仮訳)』で2011年に出版される予定です。

マリアンヌ: 子供たちの成長に電子機器が密接に関っていることについてどのような懸念をお持ちですか?

タイ: 数多くの科学的調査でこのことについての悪影響が示されています。

電子機器は、楽しく気分よく過ごせる簡単な逃避の場として依存的に使用されますが、結果的に幸せは得られるどころか、実際には満足度が下がることを最大の欠点のひとつだと思っています。電子機器はマインドフルに使用すれば建設的なツールになりますが、たいていの場合、私たちは電子メディアやゲームを不安や絶望、怒り、孤独、退屈などから目をそらすために使っています。私たちは心にある辛い感情を包み隠し、空虚感を埋め合わそうとメディアを使用するのです。

自分の心の動きや関わりからいつも目を背けていると、疎外感や悲しみが増してしまいます。多くのテレビ番組や音楽、ゲームは、内にある渇望や恐れ、暴力性の種に水をやるようなとても危険なことにもなり得ます。もちろん、人生や人間関係にはつらい時期があります。しかし、私たちがその状況を見ないふりをするために、麻薬に依存したり無分別に食べたりするのと同じように電子機器に依存すればするほど、その問題は無くなるどころか大きくなるのです。

だからといって、座って悩んでじっくり考えこみなさいと言っているわけではありません。行き詰ったどんな場合においても、静かに座り、身体や気持ちを落ち着け、呼吸を通して生きていることに喜びを感じられる瞑想こそが何よりも気持ちをすっきりさせる方法であり、その問題を乗り越える方法でもあるのです。

マリアンヌ: より多くの人が実際に瞑想やリラックスをする時間を持った場合に、どのような社会的効果が現れると思われますか?

タイ: 暴力や貧困、苦しみが私たちの周りに溢れていることは容易に分かりますが、私たちはこれらを変えるほどの力がない、弱い存在だと思っています。苦しみはとても身近な家族の中にあるかもしれません。家族のひとりが麻薬中毒や凶悪犯罪のような絶望的な状況に置かれ、大きな苦しみの中にいるかもしれません。そして私たちは、その人をどうやって救えばいいか分からない、私たちには忙しい生活があるのだと自分に言い聞かせるのです。

私たちは何にそんなに忙しいのでしょう?私たちの多くにとってそれは、素晴らしい学位や、新しい車、大きな家、魅惑的な休暇のために働くことです。リラックスや瞑想のために時間をとり、これまで好んで受け入れてきた絶え間なくやってくる広告を受け取ることをやめれば、私たちは、本当はほんの少しのもので満たされることに気づくのです。私たちはすでに何を犠牲にすることもなく、幸せでいられる条件をたくさん持っているのです。例として目をあげましょう。私たちの目は奇跡です。ふたつの宝石があるようなものです。私たちは目を開くだけで青い空やふわふわの白い雲、美しい花々や愛する人の顔を見ることができるのです。私たちの耳はどうでしょう?耳は、元気が出る音楽や鳥のさえずり、川のせせらぎ、ヤシの木を吹き抜ける風の音を好きな時に聴くことができるのです。これらは生命の奇跡であり、いつでも私たちの目や耳を通して届くのです。今、健康であること、足が丈夫であること。これは私たちの身体の奇跡なのです。

このような何の代償もいらない喜びを見つけ、よりシンプルに生き、身近な人の話に深く耳を傾けたり、上院議員に手紙を書くような時間をつくってみませんか? 私たちが目覚め、今起こっていることに、より気づきを向けるようになり、本当に必要なことと必要でない事が分かると、個人の生活はたやすく、大きく変化するだけでなく、社会にも大きな変化をもたらします。それ以外の方法は、私には分かりません。

人は身体と心がリラックスしていると、暴言を吐いたり暴力をふるう事が少なくなる傾向にあります。そして幼少時代にもっていた洞察力やパワーの源を思い出し、それを使えるようになるのです。女性と男性は歴史を通して不可能だと思われていたことを成し遂げてきました。実際に、マインドフルな瞑想で個人や社会に前向きな変化をもたらすことはいくらでもできるのです。私たちに必要なのは、どこにいようと、今いる場所で始めることなのです。

マリアンヌ: 自分の内面を育てながら人間社会とバランス良く関わるにはどうしたら良いのでしょう?

タイ: リラックスや瞑想に時間を費やすと、出世や良好な人間関係など他の目標が達成できなくなってしまうという思い込みに、前向きに向かい合わなければなりません。矛盾しているように聞こえますが、私自身や生徒の経験から、瞑想をする時間をとると、その他の生活で得るものが大きくなるのです。

仕事を例に挙げると、それが掃除機の販売、法律に関する書類の作成、働き手の病欠日数の削減やその他の損失の削減であろうと、革新的な発想ひとつで結果を大きく変えられるのです。人間関係で言えば、職場でも家庭でも、リラックスをし、ゆとりを持ち、注意深くいることで、怒りを感じた時に浮かぶ厳しい言葉を言わずにすませることができるのです。

人間関係は森のようなものです。信用を築くのにはとても長い時間を要しますが、たった一度のとても軽率な行動や発言が火のついたマッチのようにすべてを破壊してしまうのです。実践を行っている私たちは、瞑想やリラクゼーションが我々の生活全体において、創造性や革新的な発想、賢明な選択、成功、充足感を促進するために、最も効率的な方法だとはっきりと認識しているのです。

原文(英語)とリンクは

“Exclusive Interview With Zen Master Thich Nhat Hanh” Huffpost Healthy living 21 May 2010 http://www.huffingtonpost.com/marianne-schnall/beliefs-buddhism-exclusiv_b_577541.html

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